鈴木 |
つい先日さ、土曜日かな、同期会があってさ。
俺たちの高校、羽田なんだけど、夫婦者が多いんだよ。
同級生で結婚しちゃったっていう、
クローズドされた社会でさ。
その一組が埼玉に住んでるんだけど、
よし、遊びに行こうっていうことになって。
タクシーで行って、着いたら、子供、女の子2人がいた。
その子の顔を見てるとね、その子の昔を思い出すわけだ。
他人の子だけどね。「君ってさ、普通の髪型じゃなくて
こうこうこうだったよね、あの時野球やってたよね」って、
過去を一緒にいた時間があるから、
思い出すことができるんだ。
でも実は二重の過去の共有があるわけ。
親と子と私の間に。それこそ複雑にいろんな事考える。 |
糸井 |
鼠穴に夜中にいると、思い出話がいちばん盛り上がるよ。 |
鈴木 |
わがバンドも。結局はそういうことなんだね。
一緒にいる時間、少ないくせに、一緒にいると、
休憩中は思い出話。近いとこは何も覚えてないんだけど。 |
糸井 |
思い出はエンターテインメントなんだよ。
メモリー・イズ・エンターテインメント、なんていってね。 |
鈴木 |
じゅうぶんそうだね。 |
糸井 |
その理由って、先が見えないからなんですよ。 |
鈴木 |
現在が。 |
糸井 |
つまり、脱サラした夫婦がラーメン屋はじめたときは
先を見たいから一生懸命やりますよね。
「これからおまえよう、家建ててよう」
って言って土地のパンフなんか見て喜んだりする、
っていうのは、これ、未来に向かっているわけじゃない。
でも今、欲望も何も全部ふさがれてて、
どうやって生きてくんだろう……? |
鈴木 |
計画立たない。 |
糸井 |
だから過去を見るわけで。 |
鈴木 |
スピードを持って先を見るというのも、
似たようなものだね。先が見えない。 |
糸井 |
腹が立つのは現在だ、っていう気持ちなんだよ。
それが崖っぷちなんだよ。明日いいことが起こるって
信じても、嘘だってばれちゃうわけで、
宝くじ当たった人とかはね、明日いいことがあるって
言っても……、 |
鈴木 |
そうだね、一回そういう経験があると
やみつきになるのかもしれないけどさ。 |
糸井 |
賭博とかもそうだと思うんですよ。
で、その喜びって俺、あると思うんですよ。
でも、一般に生きてるときは、メモリーって
最高のごちそうだな、と。
例えば俺なんか、子供のビデオ、ベータで撮ってる。 |
鈴木 |
俺なんか、子供の頃、8ミリだよ。 |
糸井 |
あ、それは、見る機会ないですよね。 |
鈴木 |
どっかに頼まなきゃならない。 |
糸井 |
アルバムだって何枚もあるのも楽しいけど、
ほんとはその1枚がぽっと出たほうがいいわけですよ。 |
鈴木 |
写真を例にとれば、どこかから1個の写真をとると、
つまらないじゃない。 |
糸井 |
つまらない。アリバイみたい。 |
鈴木 |
ああ、ここでこういうことをしてたんだなって。
じゃあしていたことがどうなんだって考えになるじゃない。
写真も記憶も連続している。
それより過去のものっていうのは、そこにいるだけで、
写っているだけで想像力が非常にふくらむわけですよ。
フッとセピアになる。
それ以降のつまらない写真と一緒になってるから、
全部見えてしまうんだよなあ。 |
糸井 |
いっぱい、そういうの周辺のヒントがあってさ、
こないだ対談したときに、そこにいた女性の編集者が、
「女の人が、一番自分がもててたころの化粧から
変わらないのはなんでなんでしょうね」って言うんだ。 |
鈴木 |
(笑)いくつになっても? |
糸井 |
だからさ、「弘田三枝子」の顔してる女の人、
いっぱいいるじゃない? だからもう、
極端に化石みたいになったら鈴木その子みたいになって、
化石を見るみたいにおもしろいわけだけど、
ちょうど半端なところで、サーファー系ぽく後ろ髪
伸ばしたりさ、今でも子供にそうやらせたりするじゃない。
あの感じっていうのが、やっぱこれもどっかで、
一番いい自分っていうのが何歳って、
決めてんじゃないかな。俺はそれがよくわかんない人間、
自分を売り渡しながら生きてきた人間なんで……。 |
鈴木 |
おれもよくわかんない。本当によくわかんない。
あの時が一番よかったっていうのは、ね。 |
糸井 |
モテた時期っていうんだったら、客観性があるじゃない。
あの頃は意味なくモテたな、とか。
そういう馬鹿なことはある。
だけど自分とは違うんですよ。自分とは関係ない。
余計なゲームしてたっていうね。
それはね、ほんと、今、未来を語ることと過去を語ることの
両方がね、もっとふくらむものが、今の興味なんだ。
未来が……、 |
鈴木 |
(両手でタテにふたつマルをつくって)
こういうふうに広がってるんでしょ? |
糸井 |
そうそう、ひょうたん型というか、砂時計型?
そこはねえ、いいなあ。 |
鈴木 |
たしかにそうだなあ。じゃあ一番イヤな自分に
会うとしたら? 逆に。 |
糸井 |
イヤな自分ははっきりいえるな、俺。
ヤな自分はねえ、やっぱり原因を考えたくなるんですよ、
おんなじ俺だから、って思うんですよ。
原因考えるとね、根っこにあるのは自信のなさだね。 |
鈴木 |
なるほど(笑)。 |
糸井 |
自信がないから余計なところで変なポーズとったり
腕に力こぶ作ってみたりして、そこ触られると
ビリビリしちゃって、あらぬ方向に走っていくという。
病気の時って心がいちいち痛むじゃないですか。
自信がない時っていうのは病気の時と
おんなじだと思うんですよ。 |
鈴木 |
おれは自信がないというか、
どっちかというと、意気地がない。 |
糸井 |
おんなじおんなじ(笑)。 |
鈴木 |
びびったときとか、それがイヤだった。 |
糸井 |
おんなじだよ。やだよねー。今だったら、
「いや、人はびびるもんでしょう」
って言うけどね。 |
鈴木 |
思いっきりびびってたときって覚えてたりするからね。 |
糸井 |
それはびびる前になんで逃げなかったのか、
という頭の悪さが問題で(笑)。
そうか、慶一君もそのあたりだな。
それと速度を一緒に考えてるっていうのが
わかる気がするな。
(つづく) |